赤松林太郎は非常に活発な演奏活動をはじめ、教育に執筆と、世界を股にかけて常に第一線の活躍を見せる、いま最も忙しいピアニストのひとりである。膨大な演奏経験と知識に裏付けられたレクチャーコンサートは楽曲の本質を非常に明快に解き明かすものであり、多くのピアノ教育関係者はもちろんのこと、一般のファンにも大人気である。作曲家の想いに常に寄り添いながら、自身の作品や作曲家への敬愛が存分に発揮された情熱的な演奏が魅力の赤松。常に大量のレパートリーを鮮やかに演奏してくれる彼が、この度子供のための小品をまとめたアルバムを配信してくれた。
収録曲は「子供のために」に書かれたものであり、「コンクールでよく弾かれる」（実際に2020年度のピティナ・ピアノコンペティションの課題曲をまとめた内容である）作品だが、ここで聴ける演奏はただの「お手本」ではない。それぞれの作品の中にある情景や想いに徹底的に向き合い、赤松だけにしかできない表現を紡ぎ出した「芸術作品」である。メロディと伴奏のバランス、和声やニュアンスの変化に対する敏感さに、その多彩な表現の幅など、ごく短い作品から無数に様々な表情を見せてくれる。ここで聴ける表現の多彩さに触れることで素直に感動することはもちろんだが、特にピアノを演奏する方は、楽曲にこれだけの可能性がある、ということを改めて感じ、自らの表現を模索することにさらに力を注いで頂けたらと願うばかりである。〔長井進之介〕